CONSULTING COLUMN
最新住宅業界動向コラム / 商圏・業績データ
本コラムをお読みいただきありがとうございます。
船井総合研究所 住宅・リフォーム支援部 マネージングディレクターの日野信です。
現在、多くの地方住宅会社・工務店の経営者の皆様が、厳しい経営環境の中で悩みを抱えていらっしゃることと存じます。人口減少、資材価格・人件費の高騰、そして何よりも競争の激化による受注難は、まさに喫緊の課題でしょう。「このままではどうなるのか」「次に何をすべきか」と、事業の進退について真剣にお考えの方も少なくないかもしれません。
しかし、このような状況下でも、業績を伸ばし、地域で存在感を高めている企業が存在しているんです!
この差は一体どこから生まれるのでしょうか?そして、私たちはこの激動の時代をどのように乗り越え、勝ち残っていけば良いのでしょうか。
船井総合研究所では、このような住宅業界の現状を深く分析し、今後の住宅会社が取るべき「勝ち残り戦略」について詳細にまとめたレポートを作成いたしました。本コラムでは、そのレポートの内容の一部をご紹介し、皆様が直面している課題解決のヒントと、未来への一歩を踏み出すための示唆をご提供できればと考えております。
まず、私たちが共有すべきは、現在の住宅業界が置かれている状況です。
2025年以降、私たちが取り組むべきことの前提として、いくつかの重要な「現状認識」を挙げていきたいと思います。
一つ目は、「商品」に関する変化です。
価格高騰と住宅性能の向上により、ブランドごとの商品差別化要素が圧縮化されつつあります。高性能化は必須となる一方、それだけでは他社との明確な違いを打ち出しにくくなっています。勝ち残るためには、粗利率35%を確保しつつ、フォーマルかつ高性能な商品ラインナップを追求するなど、高性能でも収益性を同時に追求できる戦略が必要です。
二つ目は、「集客」です。
集客媒体の多様化に伴い、見込客一人あたりの「来場顧客単価」が著しく上昇しています。2010年には5万円程度だった来場単価も、2024年には10万円にまで跳ね上がっています。これは、従来の集客戦略では効率が悪化していることを意味します。来場単価を10万円以内に抑えつつ、いかに効率的に見込客を確保するかが問われています。
三つ目は、「営業」の現場です。
かつては仕組み化するだけで営業マン一人あたり平均6棟を受注できるような方程式が存在したかもしれません。
しかし、今はその方程式が崩れています。マニュアルに頼るだけでは契約が取れない時代になったのです。これからは、個々の営業マンの「人間性向上」が不可欠であり、それを土台とした契約率20%化を目指す必要があります。
四つ目は、「人財」に関する課題です。
働き方改革への対応に加え、採用難は深刻化しています。これによりP/L(損益計算書)上の人件費が高騰し、数値が悪化する傾向にあります。人財確保と定着のために、例えば平均年収750万円にチャレンジするなど、魅力的な労働環境を整備することも視野に入れるべきでしょう。
五つ目は、「物」、つまり建材や資材、そして職人さんについてです。
物価上昇に加え、職人さんの日当も高騰しています。これは建築原価の上昇に直結します。さらに、職人不足は深刻な問題であり、工期の遅延や品質への影響も懸念されます。メーカーからの仕入れ価格を抑制する交渉力なども重要になってきます。
六つ目は、「財務」状況です。
建物の利益率低下や、不動産関連事業における回転率の低下により、キャッシュが減少しやすい傾向にあります。複数の金融機関と取引を行うことで、キャッシュポジションを厚くするなどの対策が求められます。
最後に、七つ目は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。
多くの企業でデジタルツール導入は進み、一定の利便性は向上しました。
しかし、それが必ずしも「生産性」の本質的な向上、特に「社員一人あたり粗利の向上」に繋がっているかというと、そうではないケースも見受けられます。社員1名あたり粗利2000万円以上といった具体的な目標 を設定し、真の意味で生産性を高めるDX投資を見極める必要があります。
これらの現状認識は、皆様が肌で感じている課題と重なる部分が多いのではないでしょうか。従来の成功パターンが通用しなくなり、経営のあらゆる側面に構造的な変化が起きているのです!
さらに、勝ち残るためには、お客様がどのように変化しているかを深く理解する必要があります。我々は、現在の主な顧客属性を以下の3つに分類しています。
①ローン不安層
単独で年収300万円~400万円程度の層です。住宅ローンを組むことに不安を感じており、現実的な選択肢として中古住宅のリフォームに関心が高い傾向にあります。
②家代を抑えたい層
子育て世帯で共働き、世帯年収600万円程度の層です。コストを抑えつつ、ある程度の品質や間取りを求める層であり、規格住宅やセミオーダー住宅が響きやすいと言えます。集客においては「月々〇万円」「30坪1,980万円」といった価格訴求が有効で、営業では「エリアスタンダードが一番お手頃に叶う」といったメッセージが響きます。
③こだわり層
夫婦のみの共働きで世帯年収600万円、または子育て世帯で共働き、世帯年収1000万円といった層です。明確なこだわりや理想を持っており、「ハウスメーカーよりお得にこだわりが叶う」ことを求める層です。集客では施工事例のクオリティや、標準設備仕様・性能面のわかりやすさが重要になり、営業では要望を適切にヒアリングし、期待以上の提案を行うことが鍵となります。
これらの属性ごとに、接客のポイントは大きく異なります。
「こだわり層」のお客様には、そのこだわりを丁寧にヒアリングし、自社だからこそできる最高の提案を行うことが重要です。単に要望を聞くだけでなく、「未来のヒアリング」を通じてお客様の将来の暮らしを見据えた提案力を磨く必要があります。
一方、「家代を抑えたい層」のお客様は、こだわりが強いわけではありませんが、「いいものを手頃に買いたい」という思いを持っています。
そのため、「いいもの」から「自分たちに必要なもの」へと考えをシフトしてもらうようなコミュニケーションが必要です。「過去のヒアリング」からお客様のライフスタイルや価値観を引き出し、そこにニーズを作り出す。そして、お客様が建物そのものに共感できるように導く「建物共感」がポイントになります。ここで重要なのは、「こだわりがない=薄い」という感覚で接しないこと です。お客様の価値観を理解し、寄り添う姿勢が不可欠です。
このように、お客様の属性を見極め、それぞれに最適なアプローチをすることが、契約率向上のためには必須となっています。もはや、画一的なマニュアル営業だけでは通用しない時代なのです!
厳しい環境下でも業績を伸ばしている企業には、共通する特徴があります。100社以上の住宅会社・工務店が加盟する、船井総研の住宅ビジネス研究会において、MVP企業に輝いた企業の現状を見ていきたいと思います。
ローコスト住宅研究会MVPの新潟県A社は、創業6年で売上30億円を達成しています。特徴として、20代で事業部長を複数名輩出し、新卒1年目の社員が12棟以上受注するなど、若手人財が活躍している点が挙げられます。
高性能住宅研究会MVPの埼玉県I社は、売上40億円から50億円へと、前年比130%成長を遂げています。中途採用を中心に、総合展示場での平均契約率30%を達成し、毎年出店を加速、全拠点にて24棟以上を達成しています。
デザイン住宅研究会MVPの新潟県O社は、売上2桁成長に加え、地域貢献や女性の働きやすい会社づくりにも貢献しています。100%女性営業であることも特徴の1つで、新卒中心で平均契約率20%超えを実現しています。
これらの成功事例から見えてくるのは、「人財育成」と「契約率」が、業績アップの極めて重要な鍵を握っているという事実です。どんなに良い商品があっても、どんなに集客できても、最終的にお客様に選んでいただく力がなければ、業績は伸びません。そして、その選ばれる力を生み出すのは、他ならぬ「人財」なのです。
では、具体的に、どのようにして契約率を高め、勝ち残る企業になっていくべきなのでしょうか。2025年以降、契約率20%越えを目指すために取り組むべき3つのポイントを解説していきたいと思います!
前述の通り、お客様の属性やニーズは多様化しています。もはやマニュアル通りの質問をするだけでは、お客様の真の要望や不安を引き出すことはできません。お客様一人ひとりに合わせた適切なヒアリングを行う力が不可欠です。
ヒアリング力を向上させるためには、ロープレ(ロールプレイング)が有効ですが、多くの会社でロープレには課題があります。例えば、店長やマネージャーがプレーヤーも兼任しているため、十分な時間が確保できない。また、若手中心のロープレは成果に直結しにくく、優先度が下がりがちです。さらに、顧客設定があいまいで、実際の商談と乖離があるといった問題も聞かれます。
こうした課題を解決する可能性として、船井総研では「AI活用」に注目しています。実際の接客データを蓄積することで、精度の高い各社ごとのAIが誕生しうるのです。AIを活用すれば、実来場のお客様に近い対応をシミュレーションしたり、売れている営業マンと比較したフィードバックを得たり、人がいないから練習ができないという状況を解消したり と、効率的かつ効果的なヒアリング研修が可能になります!
住宅の省エネ化・高性能化が進む中で、補助金制度も多様化しています。
しかし、単に「この補助金があるから今建てましょう」という訴求は、お客様に響きにくくなっています。お客様は、補助金そのものよりも、その家を建てることで得られるメリットに関心があります。
そこで有効なのが、「GX志向型住宅を活用したランニングコスト営業」です。これは、高性能住宅にすることで、光熱費などの「ランニングコスト」をどれだけ抑えられるかを具体的に示す営業手法です。お家の購入にかかる費用は、住宅ローン返済額だけではありません。電気代、ガス代、灯油代といった光熱費、さらには固定資産税やメンテナンス費用なども含めた「ライフサイクルコスト」で考えることが、お得な家づくりのコツです。
レポートでは、賃貸住宅とローコスト住宅、そして省エネ基準適合レベルの住宅(ここでは●●ハウスとして例示)のライフサイクルコストを比較するシミュレーションシートが紹介されています。例えば、建物本体価格がローコスト住宅で1,800万円、省エネ基準適合レベルの●●ハウスで2,100万円、大手HMで3,500万円といった比較に対し、毎月の支払い(ローン+光熱費)では、賃貸が85,000円、ローコスト住宅が104,590円、省エネ基準適合レベルの●●ハウスが63,844円(売電収入含む)といった試算が示されています。
このように、初期投資が高く見えても、高性能な住宅の方が長期的に見たランニングコストを含めた総費用が抑えられることを、具体的な数値で分かりやすく伝えることが、お客様の家づくりにおける意思決定を後押しします。補助金を活用することで初期費用を抑えつつ、高性能住宅による長期的なコストメリットを訴求する。これが、変化する補助金制度を最大限に活用する新しい営業手法です。
競争が激化する中で、勢いのある競合他社の存在を無視することはできません。特に、受注難・集客難が騒がれている住宅業界でも、着工棟数を伸ばしている一条工務店やアイ工務店といった企業への対策は必須と言えるでしょう。
レポートでは、これらの企業の「攻略の糸口」を探るための分析にも触れています。例えば一条工務店は、海外工場での生産や外国人の職人施工、2×6工法や工場生産による間取りの自由度の少なさ、パッシブ設計を導入せず数値で高性能を訴求する点、床断熱・天井断熱を採用している点、自社ブランドのみの住宅設備に限定している点 などが特徴として挙げられています。
また、アイ工務店については、展示場は5階層の家だが実際の提案は通常プランが多い点、オーナー様邸や完成見学会をあまり開催していない点、営業がシステムを使ってプラン提案を行う点、そして社員数1,700名のうち1,000名が営業という人員構成によりアフター部門に懸念点がある点 などが分析されています。
こうした競合の強みと弱みを正確に把握し、自社がどこで差別化し、どのように優位性を築くか。そのための「対策マニュアル作成」が必要なのです。競合を知ることは、自社の勝ちパターンを見つける第一歩です。
ここまで、レポートで示されている住宅業界の現状認識、顧客動向の変化、そして勝ち残るための具体的な戦略の方向性について、その一部をご紹介しました。変化の激しい時代において、従来の延長線上の経営では、残念ながら生き残りが難しくなってきているのは紛れもない事実です。
しかし、悲観する必要はありません。環境が変化したということは、新たな勝ちパターンが生まれるチャンスでもあるのです。今回ご紹介した「人財育成・契約率の向上」というテーマは、まさにその新たな勝ちパターンを掴むための核心と言えるでしょう。顧客一人ひとりに寄り添う営業への転換、データを活用した効率化、そして競合を分析し自社の強みを最大限に活かす戦略。これらは、どんな規模の会社でも、今から取り組める具体的な施策です。
本コラムでは、レポートの膨大な情報の中から、特に重要なエッセンスを抜粋してお伝えしました。実際のレポートの中では、これらの内容がさらに詳細に分析され、具体的なデータや成功事例、そして実行に移すためのステップが詰まっています。
この「住宅会社の勝ち残り戦略レポート」は、地方で奮闘する皆様の会社が、この厳しい環境を乗り越え、持続的に成長していくための羅針盤となるはずです。受注難に悩む皆様、競合との戦いに疲弊している皆様、そして会社の未来について真剣に考えられている皆様にとって、必ずやお役に立つ情報が満載です!
ぜひ、この機会にレポートをダウンロードしていただき、貴社の「勝ち残り戦略」策定に、そして明るい未来を切り拓くための一歩にお役立てください。
貴社の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。