CONSULTING COLUMN
最新住宅業界動向コラム / 商圏・業績データ
家づくり検討し始めてから展示場やモデルハウスに来場するまでのリードタイムは年々長くなっています。自社を認知し、興味関心を持ってもらって、他社と比較しながら来場を検討し、行動を起こすまでは一般的に半年と言われています。チラシが集客のメインコンテンツだった時代は、土曜日の朝刊に折り込めば、土曜日の午前中にチラシを握りしめたお客様が来場してくれていました。当時のリードタイムは数時間で、ホームページも整備されておらず、当然ながらSNSやYouTubeなどもない時代でしたので、来場するしか情報収集の手段はありませんでした。
リードタイムが長くなっている要因は2つ考えられます。ひとつは、昔と違って来場するまでに情報収集を行うツールが豊富にあることです。もうひとつは、他社との違いがわからないからです。比較検討段階のお客様は「AホームとB工務店の違いは何だろう?」と気になって情報収集を行いますが、いまいち違いがわかりませんので、わからないからより調べます。そうこうしているうちにリードタイムが長くなっていきます。リードタイムが長くなるのは悪いことではありませんが「よくわからないから行かない」となるのは避けなければなりません。
つまり、情報収集段階で自社の強みや特徴を素人目線で明確に発信していくというのが、今の時代には必要です。この「よくわからない」が集客の差になっており、そもそも何が強みなのかが記載されていなかったり、記載されてあっても一般的過ぎるというのでは伝わりません。もしくは玄人目線過ぎてわからないというのも考えられます。そうした背景にあるのは、どの会社も同じことをアピールするようになりコモディティ(一般)化していることにあります。そこで今回のコラムでは、集客と業績を回復させるための正しいリブランディングについて一緒に考えていきましょう。
コモディティ化とは、市場投入時には高付加価値の製品やサービスと認識されていたものが、市場が活性した結果、他社が参入しユーザーにとって機能や品質などで差がなくなってしまうことです。特に住宅業界は、資材高騰により価格に対する安さ訴求が弱くなっています。ウッドショック以降、ホームページに価格を表示する会社は目に見えて減りました。それと省エネ住宅の基準が、2025年には今の省エネ住宅が新築住宅の基準になり、さらに2030年にはZEH水準の省エネ住宅が新築住宅の基準になることによることも、コモディティ化に拍車をかけています。要は、どの会社も性能を訴えるようになり、ますます違いがわかりにくくなっているのです。こうした法改正には適応していかなければなりませんが、基準が変更になるからという安易なことではなく、改めて自社の強みを見直さなければより伝わらなくなります。
「価格高騰により価格の強みを打ち出せなくなった…」「どの会社も性能の高さをアピールするようになり、以前よりも他社とのアドバンテージがなくなってきた…」「格好悪い家は売れないのでデザイン性を高めなければならない…」などなど。値上がり分だけ価格を上乗せしただけでは当然ながら売れません。そのような場合に有効なのがリブランディングです。リブランディングとは、商品・サービスや企業自体の既存のブランドを、時代の変化や顧客に合わせて構築し直すことで、 ブランドの求心力や影響力に陰りが感じられた際、魅力やアピール力を蘇らせるための取り組みです。
新商品を導入するだけでは限定的で、業績アップに対するインパクトはほとんど期待できません。リブランディングは、ブランドイメージやアイデンティティを大幅に変更して新たな方向性を打ち出すことを指します。一方でリニューアルは、既存のブランドを改善・更新し、今の時流の要素を取り入れてアップデートすることを意味しており、コアな部分を変えることなく時代の変化に応じて刷新を行う方法です。商品だけを変えるリニューアルではなく、商品を含めた自社のブランドを再構築(リブランディング)しなければならないのです。
このリブランディングもやり方を間違えると、良くなるどころかより業績の悪化を招いてしまうことがあります。ある地域密着の工務店の事例をお伝えします。売上は約10億円。価格の安いローコスト住宅で近年業績を伸ばされてきました。しかし、価格高騰でその価格訴求が弱くなり業績は低迷します。そこで快適性、お得感、オシャレをすべて叶えた家づくりという訴求にリブランディングを行うのですが、以前のコンセプトと比べるとよくわからなくなってしまいました。イベントページも様々な客層に向けた企画になっており、誰に向けた家づくりを行っているのか?というターゲットがわからなくなってしまっているのです。
リブランディングの成功ポイントは、より自社の強みを尖らせることです。お客様が求めているすべての要素を盛り込むと最高の商品が完成するように思われるかも知れませんが、仮に最高の商品だったとしても伝えるときに、性能もデザイン性も高いと言ってしまうと、逆にお客様には魅力的には映りません。なぜなら特徴が見えないからです。
例えば、飲食店で「うどんもそばもラーメンも美味しい」と伝えてしまうと、うどんが食べたい人もそばが食べたい人もラーメンを食べたい人も集客することはできません。うどんかそばかラーメンのどれかひとつに絞るべきです。うどんを強みに出して集客を行いますが、そのお客様がうどんではなくそばやラーメンを注文してもいいのです。のちに「うどんが有名な店だけど、実はラーメンも美味しい」というクチコミが自然と起こります。ブランド力を高めるためには「AだけどB」というようにAとBの間のギャップが大きければ大きいほど魅力的に伝わります。反対に「AもBも」となればなるほど「よくわからない」となり、自社を選択してくれなくなります。(コラム掲載不要→)間違ったリブランディングをしていませんか?
色々な経営者と話をしていて、ウッドショック以降、経営者の口からよく出てくる言葉に差別化があります。いかに他社と差別化を図るのか?ということですが、実は差別化もリブランディングによる強みの際立たせ方も同じです。会社経営として他社との差別化はしていかなければなりませんが、差別化を意識してニッチな市場に行き過ぎるのはよくありません。なぜなら、住宅市場は縮小しており、ニッチな市場はより縮小しているからです。確かに競合の少なくブルーオーシャンではありますが、そもそもの売上的なボリュームが担保されているどうかという視点も必要です。自社が取り組んだとしても売上2億円ぐらいにしかならない市場だと、会社の業績に与えるインパクトはありません。
業績が伸びているところは強みが明確です。最も有名なのは「家は性能」の一条工務店。売上高成長率第1位のアイ工務店は、2023年の1月に発表した「N-ees(ニーズ)」という性能に特化した商品だけを売るように方針転換しています。桧家住宅は数値だけの性能に対して、全館空調の「Z空調」を特徴とした空調に特化しています。ヘーベルハウスは狭小地の三階建て住宅が特徴です。ビルダーではありませんが、住設メーカーのYKKAPは窓に特化しています。このように特徴を出すということは、それ以外は建てないというやらないことを決めているのです。
お客様が求めていることをすべて叶えようとすると必ず総合化します。何でもできるというのは何もできないことを意味します。何より総合化だと今のご時世だと集客ができません。リブランディングを考え始めるきっかけで多いのは、集客が不調になり出したタイミングです。にも関わらず、あれもこれもできるというメッセージを送ってしまうと逆効果です。「(あの会社は)よくわからないから行かない」にならないために、正しいリブランディングを行っていく必要性があるのです。