CONSULTING COLUMN
最新住宅業界動向コラム / 商圏・業績データ
あるクライアント先から「不動産事業を立ち上げたいけど、どのタイミングで着手すればいいか?」と相談を受けました。その会社は、価格帯が異なる注文住宅事業の2ブランドとリフォーム事業を中心に地域密着で業績を伸ばされており、3年前に分譲建売住宅事業を立ち上げられました。今は自社の建売住宅を建てるために土地を仕入れて、自社で建ててほぼ全ての物件を自社で販売されていますが、今後はより販路を広げていくために売買仲介事業も含めて拡大していきたいとお考えです。
その分譲建売住宅事業の実績としては、1年目は売上1.3億円。2年目は売上5.2億円。3年目の今期は売上6.6億円を見込んでいます。5月からの来期は売上7.5億円を目標にされています。3年前の立ち上げ時に計画した3ヶ年の事業計画では、1年目は売上1.3億円。2年目は売上4.5億円。3年目は売上6.1億円でしたので、当初立てた計画よりも上振れで推移しています。分譲建売住宅も注文住宅と同じで、この3年間は市況的にはかなり厳しい状況でしたが、その中でも業績を伸ばされているのは率直に凄いことだと感じています。この会社のように業績を伸ばされている成功事例を目の当たりにすると、業績が伸びないのは外部環境ではなく内部環境が重要だと、改めて実感します。そのような好調な事業だからこそ、分譲建売住宅以外で不動産事業を立ち上げたいという話になっているのです。
因みに、この会社の注文住宅事業とリフォーム事業は横ばいから微増で、ビジネスモデルが確立されているので既存事業の業績を伸ばすには出店し、店舗数を増やす戦略になります。注文住宅事業で建てたモデルハウスはこの分譲建売事業でも販売しており、会社としては既にシナジーをもたらしていますが、不動産に特化した事業を立ち上げることで、土地情報の仕入れが増えることが期待できるため会社としては伸びしろがあります。そこで今回のコラムでは、業績を伸ばすために経営者にやっていただきたい3つのことについて一緒に考えていきましょう。
分譲建売住宅の市場が厳しい中、この会社の業績が好調に上がっているのには理由があります。
①この新規事業に社内のエース社員を責任者として投入したこと
②そのエース社員と私との相性が良かったこと
③社長を含め役員陣が毎回の我々との会議に全て同席してもらっていること
この3つがどの事業だろうと、業績を伸ばしていくには重要だと感じています。要は、ビジネスは人が協力し合いながら行いますので、外部環境ではなく内部体制を含めた組織戦略が肝だと言えます。
①の「この新規事業に社内のエース社員を責任者として投入したこと」に関しては、新規事業の立ち上げに関わらず、事業自体の命運を握る部分です。「あの会社でうまくいっていると聞いたから取り組んだのに業績が上がらない」「それはその商品(ビジネスモデル)がよくないからだ」という発想をされる経営者がたまにいらっしゃいますが、それは間違いです。なぜならそれでうまくいっている会社があるからで、うまくいっている会社の説明がつきません。モノだけを導入するのではなく運用方法も丸ごと導入すべきです。日本の新幹線の安全性は世界随一です。それは、新幹線の車体などのハード面の技術だけが高いのではなく、路線整備や保守管理などのソフト面が優れているので、単に車体だけを導入しても恐らく世界トップレベルの安全性は担保できません。
話が脱線しましたので戻しますと、どんな事業を取り組むか?よりも誰にその事業を任せるか?が業績に直結します。私もコンサルタントして様々な会社の業績アップのお手伝いをさせていただいてきましたが、新規事業を立ち上げたけどうまく行かずに撤退や、本業が伸びない本質はこの部分です。とは言え、倒産する一番の理由は人手不足なので、余るほどの優秀な人材がいる会社はほとんどありません。だからこそ、今の時代は優秀な人材をフル活用すべきです。具体的には、優秀な店長にA店だけをマネジメントさせるのではなく、B店もC店も含めて複数マネジメントさせる方が業績は伸びます。
②の「そのエース社員と私との相性が良かったこと」にも関わるところですが、このエース社員の方とはこの会社にとって2つめの注文住宅事業を立ち上げる際にも責任者になってもらいました。その事業の1店舗目は初年度から計画をクリアし黒字で、2店舗目を立ち上げるにあたってそのエース社員に店長になってもらいましたが黒字でした。このように優秀な人材は、新しい事業や新しい地域での事業展開を任せてもうまくいく確率が高いのです。私との相性が良かったのも幸運でした。優秀な社員ほど1人で仕事はしておらず、上手にまわりを巻き込んで仲間にしていくのが上手いと感じます。そう考えると誰と組ませる方がいいのか?というバティ(相棒)の存在も重要です。
いくら優秀な人材とその優秀な人材と相性が良いバティがいたとしても、うまくいかないことはあります。それが③の「社長を含め役員陣が毎回の我々との会議に全て同席してもらっていること」で、社長を含めた経営陣が現場に任せっぱなしにしないことです。子育てと同じで「もうこの事業は現場に任せても大丈夫」と経営者が思うまでは伴走しなければなりません。つまりエース社員が現場をマネジメントしていきながらも、結局のところ全てはトップの経営者で決まるということです。あと気をつけないといけないのが、経営者が任せるということはその現場の責任者が責任を持って事業を遂行していくことなので、いちいち口は出さずに何かあったときに責任を取ると明言することです。
田中角栄が大蔵大臣に就任した際、大蔵官僚を前に挨拶をした内容そのものです。「私が田中角栄であります。皆さんもご存じの通り、高等小学校卒業であります。皆さんは全国から集まった天下の秀才で、金融、財政の専門家ばかりだ。かく申す小生は素人ではありますが、トゲの多い門松をたくさんくぐってきており、いささか仕事のコツは知っているつもりであります。これから一緒に国家のために仕事をしていくことになりますが、お互いが信頼し合うことが大切だと思います。従って今日ただ今から大臣室の扉はいつでも開けておく。我と思わん者は今年入省した若手諸君も遠慮なく大臣室に来てください。そして何でも言ってほしい。上司の許可を取る必要はありません。できることはやる。できないことはやらない。しかしすべての責任はこの田中角栄が背負う。以上!」。
そしてこの会社の不動産事業の立ち上げの話はどうなったかと言えば、一旦保留になりました。それは「伸びている事業は余計なことはせずにその事業を伸ばし切った方がいいですよ」とアドバイスをさせていただいたからです。私がそう思ったのは、不動産事業を立ち上げるとすると、間違いなくこのエース社員が責任者になります。現状の分譲建売住宅事業にはエース社員を含め4名の営業がいて、年間10棟以上売る伸び盛りの新卒3年目の20代の若手社員がいますが、まだ責任者に抜擢するには若干早いのです。考え方によっては抜擢人事も考えられますが、今は好調な分譲建売住宅事業でも、エース社員が抜けることでマネジメントが手薄になり、ひょっとしたら売上が鈍化するかも知れないと思ったからと、社長自身もそこまで急激な成長を望んでおられなかったからです。
船井総研では「当たったチラシは当たらなくなるまで使い続けること」という原則があります。人は飽きますので違うことが試したくなくなるものです。市場が縮小するとどうしても新しいことに目が移りがちにもなりますが、業績アップも「伸びている事業は伸ばし切る」というのが鉄則で、もう一度、しっかりと本業を伸ばすという経営者の本気度が試されている気がしています。仮に注文住宅事業が本業だとすれば経営者にやっていただきたいことは①成功している企業をベンチマークすること②そしてその会社を目標に自社のロードマップを描くこと③そのために成功している企業と交流を持つことの3つです。
船井総研には「師と友づくり」という言葉があります。創業者の船井幸雄曰く、師と友ができると「やる気が出て」「仲間同士で競争するのでより張り合いが生じ」「また手法がわかるので試行錯誤をしないで確実に成長することができる」と。2ヶ月に1度開催している研究会では、全国の同じ業界の仲間が集まって、成功したマーケティングや経営方法の情報交換を行っています。そのような場も活用しながら、良いものを共有してみんなで幸せになるために、師と友づくりを実践してみてください。